yotsuさんのお気楽ライフシフト

40半ばから、自由にマイペースに、楽しく生きることを探究しています。

「万引き家族」と「家族はつらいよ」考

先行上映で「万引き家族」を観てきました。

f:id:yos813:20180615032806j:plain

是枝監督映画はすべて観ていて家庭内では是枝通を気取ってるので、早めにチェックせずにはいられないのです。
あまり余計な情報を入れないで劇場へ行くタイプなのですが、さすがにカンヌのパルムドール受賞ですから、様々な情報が流れてくるわくるわ…で満を持しての公開。なので近頃の是枝監督が得意とする特異な設定ありきと役者の好演は分かった上で、それでも引っかかっていたのはタイトル。「万引き」という、普段滅多に聞かない言葉に「家族」を当てるのが奇をてらってるのか、少しダサさが伴う違和感狙いなのか、と邪推していましたが、そこに込めた意味も観ればよく理解できました。

後で発見したこちらの記事によれば、別タイトル案『声に出して呼んで』もあったそうですが、確かに『万引き家族』の方で合点。プロデューサーさんグッジョブです。
カンヌでも原題ママ「MANBIKI KAZOKU」での上映だったようですが、中身がしっかり伝わっての受賞ですから国際評価にタイトルはあまり関係しないようです。「万引き」はその行為だけでなく、広義でのオリジナル解釈「誰のものでもないものを手に入れる、得る(盗む)こと」として独自に機能させていました。よって適切なフランス語がなかったのかもしれませんが、もし「MANBIKI」が国際言語化してこっちの意味で普及したとしたらエラいことかもしれません。

英題の“shoplifters ”には家族は入ってなくて、“万引犯、万引する人”を複数形にすることで、ひと纏まりの集団を表現しているのも面白いです。


万引き家族(英題 shoplifters ) - 映画特別映像

こんなシーンの偶然の出会い、コピーの“盗んだのは絆”も、万引きに包含されているように思われます。あ、ネタバレしそうなので、以下「家族」の方へシフトします。

 

折しも、山田洋次監督の最新作「妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ」も公開中なので、「家族」をタイトルに用いたこの2本が、まったくの対極にあることにも気付かされました。

「妻よ薔薇のように」は「家族はつらいよ」シリーズ3作目となる程、ステレオタイプな一般家庭を身近なテーマで描いています。さらに今回は専業主婦の反乱と絞りつつも、まだ多くに響きそうな分かり易いテーマです。我々より上世代が思い描いた家族の形がそこにあり、それはもう、山田監督の演出は丁寧だし的確、見る人のツボを抑えてもとの形に収まる、という安心感がどっしり。
これは「男はつらいよ」シリーズで展開され続けて実証済みだったのですが、改めてバチコンと紐解けたのが昨日のTBS「サワコの朝」に山田洋次監督のゲスト出演していまして。「家族」をテーマに人間ドラマを描き続ける原点を語っていらっしゃいました。
駆け出しの頃に先輩から「脚本の骨格に家族の関係を、どこかに一つ入れておけば落ち着くんだ」と教えられ、以来気付けば家族の物語ばかり撮っていた、と。

※2018年06月02日(土)放送分 (23分)→2018年06月09日 07:29 まで視聴できます。

万引き家族」には、本来観客が映画に求めて得られる筈の安心要素=「家族」が、最初から不穏極まりない形で見せつけられるのです。「誰も知らない」然り、近年の監督作品は皆そうです。既成概念でいうところの家族なんてどこにもありません。でもこのひと纏まりを、なんと呼ぶ? 一緒に暮らし生計を共にしてる、これって家族なんじゃね? というところから、じゃあどんな家族なんだろう? って関係性に興味を持っていかれてしまいます。

もうひとつ、山田監督には観客に結末に満足してもらおう精神が根付いている。鑑賞後に思いを持ち帰って自分の家族について考えて欲しい、とストレートです。

是枝監督は、観客に結末を委ねる、悪く言うと投げっ放しなので、満足してもらおうという意識はなさそうです。もちろん家族について考えて欲しいのだろうけど、その家族の定義、ちょっと疑ってみて、というメッセージ付きなのです。

既成概念は疑ってかからなくてはならなくなった現代社会に警鐘を鳴らす是枝監督、やはり今必要な表現者であり、日本の新たな可能性とも言えるかもしれません。評価されたのは喜ばしいことです。


ちなみに、こんなことも話題になっていますが…

「栄誉ある国際的な賞を受賞したのに首相が完無視!」と。
でもね、日本で映画なんてまだその程度、位にしか思いませんでした。逆にノーベル賞とオリンピックと並べるフランス国の自尊心たるや凄いな、と。
是枝作品は文化庁の映画助成金の常連ですが、そのレベルでは真っ当に評価も対応もされている訳で。安易に国が芸術や思想に関与しようなんて考え自体が末恐ろしいので、発言は控えてもらって大いにけっこうかと思いました。
国が国家予算をかけて日本の映画産業を食わせるべきだ、なんて議論もありますが、難しい問題ですね…。深みにハマるので本日はここまで。

ネタバレになってたらごめんなさい。いずれも誰かと語ってみたい映画でありました。